田園都市線のとある駅で起こった体験です。

私が中学生の頃、当時電車に乗って通っていた塾がその駅近くにありました。

平日週3日通い、帰りの電車に乗るのはだいたい21時頃でした。
私と友人はいつものように人がざわざわする改札を通り、ホームに向かいました。
話しながら階段を下りてホームに着いた私たちは、珍しい事に気付きました。

「(ホームの)こっちも向こうも誰もいないよ!」

そんなに大きな駅ではないのですが、平日21時の時間帯は別の塾の子や、学校・会社帰りの利用者がそれなりにいて、それまで2年ほど塾に通っていましたが自分たち以外に人がいないなんて事は記憶の限りではありませんでした。

「迎えの電話かけるね」

友人が親に電話を始めたので、少し離れたところでぼんやり待っていると、
ハァ…ハァ…と人の息が近くに聞こえてきました。ふと息が聞こえる方を向くと、黒い帽子に黒いトレンチコート、顔が異様に白いつり目の男が1メートルも離れていない場所に立ち、にやにやこっちを見ていました。

「…ねぇ……ち……の…?」
あまりの気持ち悪さにビクッと体を強ばらせていると、その男がハァハァしながら何か呟きだしたので、思わず聞き耳を立てたら、
「ねぇ、君たち、どこに住んでるの?」と言っている事がわかり、
(変質者だ!!)と一気にビビって声も出なく なってしまいました。
何とか非常事態を知らせようと友人に近づくと、最初はにこやかに親と話していた友人は、私の背後に明らかに変な男が付いてきているのがわかり、顔を強ばらせて電話を切りました。

「あのさ、向こうのベンチに座ろっか」
友人がそういうので、慌てて「そうだね!」と言い、何とかその男から離れようと思いました。

私も友人も、大声を出したり逃げたり、刺激するような事をしたら殺されるかも知れないと思い、早歩きでホームの端の方にあるベンチに向かいました。

2人とも顔を強ばらせて歩いていましたが、足音が迫って来ないので、
(ついてきてはいないかも?)と、後ろを振り返ると、3メートルくらい後ろをにやにやしながら歩いていました。
その男は革靴をはいていて、人のいないホームを歩いているのに全然靴音がしないんです。

もうすぐホームの端についてしまう…。このままでは追い詰められる。そう思い、
「やっぱり向こうのベンチに行こう!」
と言って、勇気を振り絞って顔を見ないように男の横を通り過ぎ、ホーム反対側の端を目指して歩きました。

ちらちらと人を探しましたが、こちら側も反対方向のホームも誰1人来ません。電車すら来ません。
普段5分も待てばどちら側かの電車は必ず来るはずなのに、全く来ない。遅延のアナウンスもありません。

ちらっと振り返ると、男は方向転換してゆっくりこっちに向かってきています。
2人で半泣きで歩いていると、向かっている方向のホーム一番端に、大きいかごを引きずってゴミ箱を清掃(?)しているお婆さんを見つけました。

「なんで気づかなかったんだろう!」私たちは藁にもすがる思いで近づいて、小声で何度も「助けて下さい!」と言いました。
しかしそのお婆さんは、聞こえなかったのか、必死な私たちがまるで見えていないかのように、横を通り過ぎて去っていってしまいました。

男とお婆さんがすれ違っていき、いよいよ男が私達のそばに近づいてきました。

私達の恐怖はピークに達し、友人が「もう無理!」と言って走り出しました。

また勇気をだして男の横を通り過ぎようとする友人を、私は慌てて追いかけました。私達は脇目もふらずに駅員室を目指して階段を駆け上がりました。

すると、物凄い勢いで男が階段をのぼってきました。
走るというより、高速のエスカレーターに乗っているというのが近いような感じで、足音が一切聞 こえませんでした。

私達の方が全然早くのぼり始めたのに、友人が踊場に着くころには男が先にのぼり切り、上から私達をにやにやと見下ろしていました。

友人が顔面蒼白で(どうしよう…)という顔で私を振り返った瞬間、男はサッと何処かへ去りました。(いなくなったよ!)と口パクで伝え、友人のそばに行き、2人で体を寄せ合って震えていました。

すぐにでも上へ行きたかったのですが、のぼった途端に男が現れたら…と思うとなかなか足が進まず、ゆっくり上へ向かいました。

やっと改札が見えて、男も見当たらなかったので、慌てて階段を登りきった瞬間。

ざわざわ、がやがや。
賑やかな駅の空気、私達2人以外の「音」が戻ってき ました。 私達はすぐに駅員室に行き、駅員に変質者に追いかけられた事を伝えまし た。駅員はすぐに出てきてくれて、
「今?!今出たの?!」
と言うので、慌てて駅の時計を見ました。

改札を抜けてから1分しか経っていませんでした。

階段を普通に降り、友人が電話をかけ、ホームの端から端まで歩き、駅員に話して時計を見るまでが1分。絶対ありえません。

恐怖で数分が数十分に感じたわけではなく、時計が正しい時間を表示していました。人がいなかったのも、電車が来なかったのも、お婆さんが気づかなかったのも、私達2人以外の音が無かったのも、 変な空間に一瞬迷い込んだのかな?としか説明がつかず、未だに謎のままです。

ちなみにその件以来、私か友人の両親どちらかが車で送り迎えしてくれるようになり、ほとんどその駅を利用する事はなくなりました。

終わりです。 ありがとうございました。




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