都市伝説・不可思議情報ファイル

    2016年03月

    102 名前:1/4 投稿日:03/08/30 21:09

    ああ、夏が終わる前にすべての話を書いてしまいたい。 
    もう書かないといった気がするが、そうして終わりたい。 

    俺色々ヤバイことしたし、ヤバイ所にも行ったんだけど 
    幸い、とり憑かれるなんてことはなかった。 
    一度だけ除けば。 
    大学1年の秋ごろ、サークルの仲間とこっくりさんをやった。 
    俺の下宿で。それも本格的なやつ。 
    俺にはサークルの先輩でオカルト道の師匠がいたのだが、彼が知っていたやり方で、半紙に墨であいうえおを書くんだけど、その墨に参加者のツバをまぜる。 
    あと、鳥居のそばに置く酒も2日前から縄を張って清めたやつ。 
    いつもは軽い気持ちでやるんだけど、師匠が入るだけで雰囲気が違ってみんな神妙になっていた。 
    始めて10分くらいしてなんの前触れもなく部屋の壁から白い服の男がでてきた。 
    青白い顔をして無表情なんだけど、説明しにくいが「魚」のような顔だった。 

    103 名前:2/4 投稿日:03/08/30 21:10

    俺は固まったが、他の連中は気付いていない。 
    こっくりさん こっくりさん 
    と続けていると、男はこっちをじっと見ていたがやがてまた壁に消えていった。 
    消える前にメガネをずらして見てみたが、輪郭はぼやけなかった。 
    なんでそうなるのか知らないが、この世のものでないものは裸眼、コンタクト関係ない見え方をする。 
    内心ドキドキしながらもこっくりさんは無事終了し、解散になった。 
    帰る間際に師匠に「あれ、なんですか」と聞いた。 
    俺に見えて師匠が見えてないなんてことはなかったから。 
    しかし「わからん」の一言だった。 

    その次の日から奇妙なことが俺の部屋で起こりはじめた。 
    ラップ音くらいなら耐えられたんだけど、怖いのは夜ゲームとかしていて何の気もなく振りかえるとベットの毛布が人の形に盛りあがっていることが何度もあった。 
    それを見てビクッとすると、すぐにすぅっと毛布はもとに戻る。 
    ほかには耳鳴りがして窓の外を見ると、だいたいあの魚男がスっと 
    通るところだったりした。 

    104 名前:3/4 投稿日:03/08/30 21:11

    見えるだけならまだいいが、毛布が実際に動いているのは精神的にきつかった。 
    もうゲッソリして師匠に泣きついた。 
    しかし師匠がいうには、あれは人の霊じゃないと。 
    人の霊なら何がしたいのか、何を思っているのか大体わかるがあれはわからない。 
    単純な動物霊とも違う。 
    一体なんなのか、正体というと変な感じだがとにかくまったく何もわからないそうだ。 
    時々そういうものがいるそうだが、絶対に近寄りたくないという。 
    頼りにしている師匠がそう言うのである。 
    こっちは生きた心地がしなかった。 
    こっくりさんで呼んでしまったとしか考えられないから、またやればなんとかなるかと思ったけど、「それはやめとけ」と師匠。 
    結局半月ほど悩まされた。 
    時々見える魚男はうらめしい感じでもなく、しいて言えば興味 
    本意のような悪意を感じたが、それもどうだかわからない。 
    人型の毛布もきつかったが、夜締めたドアの鍵が朝になると開いているのも勘弁して欲しかった。 


    105 名前:4/4 投稿日:03/08/30 21:11

    夜中ふと目が覚めると、暗闇の中でドアノブを握っていたことがあった。 
    自分で開けていたらしい。 
    これはもうノイローゼだと思って、部屋を引っ越そうと考えてた時、師匠がふらっとやってきた。 
    3日ほど泊めろという。 
    その間、なぜか一度も魚男は出ず怪現象もなかった。 
    帰るとき「たぶんもう出ない」といわれた。 
    そしてやたらと溜息をつく。体が重そうだった。 
    何がどうなってるんですか、と聞くとしぶしぶ教えてくれた。 

    「○○山の隠れ道祖神っての、あるだろ」 
    結構有名な心霊スポットだった。かなりヤバイところらしい。 
    うなずくと、 
    「あれ、ぶっこわしてきた」 
    絶句した。 
    もっとヤバイのが憑いてる人が来たから魚男は消えたらしい。 
    半分やけくそ気味でついでに俺の問題を解決してくれたという。 
    なんでそんなもの壊したのかは教えてくれなかった。 
    師匠は「まあこっちはなんとかする」と言って力なく笑った。

    941 本当にあった怖い名無し ウニ 2005/11/16(水) 08:27:02 ID:qTwjHGqi0

    大学2年の夏休みに、知り合いの田舎へついて行った。 
    師匠と仰ぐオカルト好きの先輩のだ。 
    師匠はそこで何か薄気味の悪いものを探しているようだったが、俺は特にすることがなくて、妙に居心地の悪い師匠の親戚の家にはあまり居ず、毎日なにもない山の中でひたすら暇をつぶしていた。 
    4日目の夜は満月だった。 
    晩御飯を居候先で食べ終えた俺は、さっそくどこかに消えた師匠を放っておいて、居づらいその家から散歩に出た。 
    特にあてもなく散策していると、ふと通りがかった場所でかすかな違和感を覚えて立ち止まった。 
    やや奥まった山中とはいえ月明かりに照らされていて、昨日も一昨日も通りがかった小さな沢なのだが・・・ 
    枯れ沢だったはずが今は不思議なことにキラキラと光が揺れいてる。 
    近くに寄ってみると、確かに昨日まで枯れていた沢に水が湧いていて、綺麗な月が水面に映っていた。 
    このところ雨も降っていないのになァ・・・と首をかしげながら居候先の家に帰ると、師匠も帰ってきていた。 
    さっそくそのことを話すと、「それは月の湧く沢だよ」という。 
    どうやらこのあたりでは有名な沢で、普段は枯れているが満月の夜にだけ、湧き水で溢れるのだという。 

    942 本当にあった怖い名無し ウニ 2005/11/16(水) 08:27:28 ID:qTwjHGqi0

    どうしてそんな不思議なことが起こるんだろうと思っていると、師匠はあっさりといった。 
    「この村から標高で300メートルくらい下がったところにダム湖があるんだけど、たぶんそのせいだと思う。あれが出来てから、湧き水の場所も随分変わったと年寄りはいってる。地下水脈の流れが変わったんだよ」 
    しかし、湧いたり枯れたりというのは変な気がする。しかも満月の夜にだけ湧くというのは出来すぎている。 
    ところが「潮汐力だよ」とまたも師匠はあっさりいった。 
    月の引力が地球に与える影響はわずかなものだが、液体である海などはモロにその影響を受ける。潮の満ち干きがその代表で、その力を「潮汐 
    力」と呼ぶ。そして満月の日はその力が最大になり、大規模なダム湖もまたその影響を受けたのではないか、と師匠はいうのである。 
    「湖水のわずかな圧力の変化が、ダム湖に流れ込む地下水への圧力の変化となり、湧き水に微妙な影響を与えたんじゃないかな」 
    「なるほど」 
    ひっかかるところもあったとはいえ、俺はその答えに素直に感心した。 
    「ただね、この村ではあの沢はあくまでも『月の湧く沢』であって、 
     そんな無粋な構造によるものじゃない。こんな言い伝えがあるんだ。 
     『あの沢に湧いた月を飲んだ者には霊力が宿る』」 
    ロマンティックな話だ。 
    でも、霊力、という響きに不吉なものを感じたのも確かだ。 
    案の定、師匠はいった。 
    「じゃ、行こうか」 

    943 本当にあった怖い名無し ウニ New! 2005/11/16(水) 08:27:59 ID:qTwjHGqi0

    暗がりの中を、懐中電灯をしぼって俺たちは進んだ。 
    沢はそんなに遠くない。よそ者の二人がこんな時間にこそこそ出歩いているのを見られたらますます居づらくなりそうだったが、幸い誰ともすれ違わなかった。 
    沢に着くと俺はほっとした。 
    ひょっとすると、幻のように水が消えているのではないかという気がしていたのだ。 
    山の斜面に寄り添うような水面に満月がゆらゆらと揺れている。 
    師匠は沢の淵に屈みこんで、目を爛々とさせながら眼下の月を見ている。 
    俺は「潮汐力だよ」といった師匠の答えに抱いた、ひっかかりのことを考えていた。 
    理科は苦手だったが、たしかにそんな力が存在することは知っている。 
    しかし・・・ 
    潮汐力が最大になるのは満月の日だけだっただろうか? 
    おぼろげな記憶ではあるが、確か月の消えた「新月」の日にも潮汐力は最大になるのではなかったか。 
    では、満月の日にだけ湧くというこの沢はいったい何だ? 
    師匠の目が爛々としている。 
    なにより師匠の目が、「潮汐力」という答えを否定しているようだった。 
    俺は得体の知れない寒気に襲われた。 
    チャポ という音を立てて、師匠が沢の水を掬っている。 
    飲む気だ。 

    944 本当にあった怖い名無し ウニ 2005/11/16(水) 08:34:30 ID:qTwjHGqi0

    師匠は掬い取った手の平に満月を見ただろうか。 
    一心不乱に水を飲みはじめた。何度も何度も手を差し入れて。 
    俺は立ち尽くしたままそれを見ている。 
    やがて信じられないものを俺は見て、ヘタヘタと座り込んだ。 
    気がつくと師匠の手が止まっていて、その下には水面が揺れている。 
    月が、もう映っていなかった。 
    消えた。 
    俺は逃げ出したくなる気持ちを抑え、この出来事に合理的な解釈を与えようとしていた。 
    『潮汐力だよ』 
    というそんな力強い言葉のような。 
    動けないでいると師匠が何事もなかったかのように歩み寄ってきて、 
    「もう月も飲んだし、帰ろう」といった。 
    その瞬間わかった。 
    へたりこんだまま空を見上げて、俺はバカバカしくなって笑った。 
    いつのまにか空は曇って、月は隠れていたのだ。 
    本当にバカバカしかった。 
    新月の謎さえ忘れていれば。 

    945 本当にあった怖い名無し ウニ 2005/11/16(水) 08:35:52 ID:qTwjHGqi0

    次の日、師匠があっさり教えてくれた。 
    「あのダムはね、30日ごとに試験放流をするんだ」 
    その周期と満月の周期とがたまたまかぶっているというのだ。 
    月の満ち欠けが一周するまでの期間を朔望月といい、平均するとおおよそ29.53日。30日ごとの試験放流では一年間で6日ほどズレが生じるはずだが、放流予定日が休日だった場合はその前日に前倒しする 
    ことになっており、その周期が朔望月に近づくのだという。 
    「でもぴったり満月の日にあの沢が湧くのはめずらしいらしいけどね」 
    力が抜けた。地下水の圧力変化の原因は潮汐力ですらなく、ただのダムの放流だった。 
    ようするに担がれたわけだ。 

    しかし、あの夜起こったことの本当の意味を知った時にはもう、師匠はいなかった。 
    数年後、師匠の謎の失踪のあとあの夜のことを思い出していて、まだひとつだけ解けていない謎に気がついたのだ。 
    あの夜、俺と師匠は懐中電灯をしぼって沢に向かった。 
    月の湧くという沢に。 
    空はいつから曇っていたのか。



    959 1/3 ウニ 2006/01/21(土) 11:34:06 ID:9bX5hJte0

    大学時代、よく散歩をした公園にはハトがたくさんいた。 
    舗装された道に、一体なにがそんなに落ちているのか、やたら歩き回っては地面をくちばしでつついて行く。 
    なかでも、よく俺が腰掛けてぼーっとしていたベンチの近くに、いつもハトが群れをなしている一角があった。 
    何羽ものハトがしきりに地面をつついては、何かをついばんでいる。 
    (このベンチに座って、弁当の残りカスでも投げている人でもいるんだろう)と思っていた。 

    2回生の春。 
    サークルの新入生歓迎コンパを兼ね、その公園の芝生に陣取って花見をした。 
    綺麗な桜が咲いていた。 
    別に変なサークルではなかったが、ひとりオカルトの神のような先輩がいて、俺は師匠と呼んで慕ったり見下したりしていた。 
    その師匠がめずらしく酔っ払って、ダウンしていた。 
    誰かがビール片手に「最初に桜の下には死体が埋まってるって言ったのは誰なんだろうなあ」 
    と言った。 
    すると師匠がムクっと起き上がって、「桜の下に埋まってる幸せなヤツばかりとは限るまい」 
    と、ろれつの回らない舌でまくしたてた。 

    960 2/3 ウニ 2006/01/21(土) 11:34:40 ID:9bX5hJte0

    すぐに他の先輩たちが師匠を取り押さえた。 
    暴走させると、新入生がヒクからだ。 
    俺は少し残念だった。 
    「ちょっと休ませてきますよ」 
    と言って、いつも座っているベンチまで連れて行き、横にならせた。 
    しばらくしてから、水を持って隣に腰掛けた。 
    「さっきはなにを言おうとしたんです?」 
    師匠は荒い息を吐きながら、 
    「そこ、ハトがいるだろ」 
    と指をさした。 
    ふと見ると、すでに日が落ちて暗い公園の中にハトらしい影がうごめいていた。 
    一斉にハトたちは顔を上げて、小さなふたつの光がたくさんこちらを見た。 
    「おまえに大事なことを教えてやろう」 
    酔っているせいか、師匠がいつもと違う口調で俺に話しかけた。 
    思わず身構える。 
    「いや、前にも言ったかな・・・人間が死んだらどこへ行くと思う?」 
    「はぁ? あの世ですか」 
    師匠は深いため息をついた。 

    961 3/3 ウニ 2006/01/21(土) 11:36:16 ID:9bX5hJte0

    「どこにも行けないんだよ。無くなるか、そこに在るかだ」 
    よくわからない。 
    師匠はいろいろなことを教えてくれはするが、こんな哲学的なというか、宗教がかったことをいうのは珍しかった。 
    「だから、隣にいるんだ」 
    人間にとっての幽霊とか、そういうもののことを言っているのだと気づくまで少し時間がかかった。 
    「そこでハトに食われてるヤツだって、無くなるまで在って、それで、終わりだ」 
    え? 
    目をこすったが、なにも見えない。 
    「すごく弱いやつだ。もう消えかかってる。ハトはなにを食ってるか分かってないけど、食われてる方は『食われたら、無くなる』って思ってる。だから消える」 
    「わかりません」 
    たいていの鳥はふつうにヒトの霊魂が見えるんだぜ、 
    と師匠はつぶやいた。 
    いつもハトが集まっていたところで、むかし人が死んだと言うんだろうか。 
    「ほんの少し離れてるだけなのになあ」 
    ハトに食われるより、桜に食われた方がマシだ。 
    酒くさいため息をつきながらそう言ったきり、師匠は黙った。 
    芝生の向こうではバカ騒ぎが続いている。 
    「師匠は自分が死ぬときのことを考えたことがありますか」 
    いつも聞きたくて、なんとなく聞けなかったことを口にした。 
    「おんなじさ。とんでもない悪霊になって、無くなるまで在って、それで、終わり」 
    ワンステップ多かったが、俺は流した。

    660 名前:壷  1/6 投稿日:03/05/06 23:26

    これは俺の体験の中でもっとも恐ろしかった話だ。 

    大学1年の秋頃、俺のオカルト道の師匠はスランプに陥っていた。 
    やる気がないというか、勘が冴えないというか。 
    俺が「心霊スポットでも連れて行ってくださいよ~」 
    と言っても上の空で、たまにポケットから1円玉を4枚ほど出したかとおもうと 
    手の甲の上で振って、 
    「駄目。ケが悪い」 
    とかぶつぶつ言っては寝転がる始末だった。 
    それがある時急に「手相を見せろ」と手を掴んできた。 
    「こりゃ悪い。悪すぎて僕にはわかんない。気になるよね? ね?」 
    勝手なことを言えるものだ。 
    「じゃ、行こう行こう」 
    無理やりだったが師匠のやる気が出るのは嬉しかった。 

    どこに行くとは言ってくれなかったが、俺は師匠に付いて電車に乗った。 
    ついたのは隣の県の中核都市の駅だった。 
    駅を出て、駅前のアーケード街をずんずん歩いて行った。 

    661 名前:壷  2/6 投稿日:03/05/06 23:27

    商店街の一画に『手相』という手書きの紙を台の上に乗せて座っているおじさんがいた。 
    師匠は親しげに話しかけ、「僕の親戚」だという。 
    宗芳と名乗った手相見師は「あれを見に来たな」というと不機嫌そうな顔をしていた。 
    宗芳さんは地元では名の売れた人で、浅野八郎の系列ということだった。 
    俺はよくわからないままとりあえず手相を見てもらったが、女難の相が出てる 
    こと以外は特に悪いことも言われなかった。 
    金星環という人差し指と中指の間から小指まで伸びる半円が強く出ている 
    といわれたのが嬉しかった。芸術家の相だそうな。 
    先輩は見てもらわないんですか?と言うと、宗芳さんは師匠を睨んで 
    「見んでもわかる。死相がでとる」 
    師匠はへへへと笑うだけだった。 

    夜の店じまいまできっかり待たされて、宗芳さんの家に連れて行ってもらった。 
    大きな日本家屋だった。 
    手相見師は道楽らしかった。 


    664 名前:壷  3/6 投稿日:03/05/06 23:27

    晩御飯のご相伴にあずかり、泊まって行けというので俺は風呂を借りた。 
    風呂からでると、師匠がやってきて「一緒に来い」という。 
    敷地の裏手にあった土蔵に向うと、宗芳さんが待っていた。 
    「確かにお前には見る権利があるが、感心せんな」 
    師匠は硬いことを言うなよ、と土蔵の中へ入って行った。 
    土蔵の奥に下へ続く梯子のような階段があり、俺たちはそれを降りた。 
    今回の師匠の目的らしい。 
    俺はドキドキした。 
    師匠の目が輝いているからだ。 
    こういう時はヤバイものに必ず出会う。 

    思ったより長く、まるまる地下二階くらいまで降りた先には、畳敷きの地下室があった。 
    黄色いランプ灯が天井に掛かっている。 
    六畳ぐらいの広さに壁は土が剥き出しで、畳もすぐ下は土のようだった。 
    もともとは自家製の防空壕だったと、あとで教わった。 


    665 名前:壷  4/6 投稿日:03/05/06 23:28

    部屋の隅に異様なものがあった。 
    それは巨大な壷だった。 
    俺の胸ほどの高さに、抱えきれない横幅。 
    しかも見なれた磁器や陶器でなく、縄目がついた素焼きの壷だ。 
    「これって、縄文土器じゃないんスか?」 
    宗芳さんが首を振った。 
    「いや、弥生式だな。穀物を貯蔵するための器だ」 
    そんなものがなんでここにあるんだ? と当然思った。 
    師匠は壷に近づくとまじまじと眺めはじめた。 
    「これはあれの祖父がな、戦時中のどさくさでくすねてきたものだ」 
    宗芳さんは俺でも知っている遺跡の名前をあげた。 
    その時、師匠が口を開いた。 
    「これが穀物を貯蔵してたって?」 
    笑ってるようだ。 
    黄色い灯りの下でさえ、壷は生気がないような暗い色をしていた。 
    宗芳さんが唸った。 
    「あれの祖父はな、この壷は人骨を納めていたという」 

    666 名前:壷  5/6 投稿日:03/05/06 23:28

    「見えると言うんだ。壷の口から覗くと、死者の顔が」 
    俺は震えた。 
    秋とはいえ、まだ初秋だ。肌寒さには遠いはずが、寒気に襲われた。 
    「ときに壷から死者が這い上がって来るという。死者は部屋に満ち、 
     土蔵に満ち、外から閂をかけると町中に響く声で泣くのだという」 
    俺は頭を殴られたような衝撃を受けた。 
    くらくらする。頭の中を蝿の群れが飛び回っているようだ。 
    鼻をつく饐えた匂いが漂い始めた。 
    まずい。この壷はまずい。 
    霊体験はこれでもかなりしてきた。 
    その経験がいう。 
    師匠は壷の口を覗き込んでいた。 
    「来たよ。這いあがって来てる。這いあがれ。這いあがれ」 
    目が爛々と輝いている。 
    耳鳴りだ。蝿の群れのような。 
    今までにないほどの凄まじい耳鳴りがしている。 

    667 名前:壷  6/6 投稿日:03/05/06 23:30

    バチンと音がして灯りが消えた。 
    消える瞬間に青白い燐が壷から立つのが確かに見えた。 
    「いかん、外に出るぞ」宗芳さんが慌てて言った。 
    「見ろよ! こいつらは2千年立ってもまだこの中にいるんだよ!」 
    宗芳さんは喚く師匠を抱えた。 
    「こいつら人を食ってやがったんだ! これが僕らの原罪だ!」 
    俺は腰が抜けたようだった。 
    「ここに来い。僕の弟子なら見ろ。覗き込め。この闇を見ろ。 
     此岸の闇は底無しだ。あの世なんて救いはないのさ。 
     食人の、共食いの業だ! 僕はこれを見るたびに確信する! 
     人間はその本質から生きる資格のないクソだと!」 

    俺はめったやたらに梯子を上り、逃げた。 
    宗芳さんは師匠を引っ張り出し、土蔵を締めると今日はもう寝て明日帰れと言った。 
    その夜、一晩中強い風が吹き俺は耳を塞いで眠った。 
    その事件のあと、師匠は元気を、やる気を取り戻したが俺は複雑な気持ちになった。

    655 名前:歩くさん 1/4 投稿日:03/05/06 23:21

    僕の畏敬していた先輩の彼女は変な人だった。 
    先輩は僕のオカルト道の師匠であったが、彼曰く 
    「俺よりすごい」 
    仮に歩くさんとするが、学部はたしか文学部で学科は忘れてしまった。 
    大学に入ったはじめの頃に歩くさんと、サークルBOXで2人きりになったことがあった。 
    美人ではあるが表情にとぼしくて何を考えているかわからない人だったので僕ははっきりこの人が苦手だった。 
    ノートパソコンでなにか書いていたかと思うと急に顔を上げて変なことを言った。 
    「文字がね、口に入ってくるのよ」 
    ハア? 
    「時々夜文章書いてると、書いた文字が浮き上がって私の口に入りこんでくるのよ」 
    「は、はあ」 
    な、何?この人。 


    656 名前:歩くさん 2/4 投稿日:03/05/06 23:21

    「わかる? それが止らないのね。書いた分より多いのよ。いつまでも口に 
     入りつづけるのよ。そのあいだ口を閉じられないの。私はそれが一番怖い」 
    真剣な顔をして言うのだ。 
    当時は電波なんて言葉は流通してなかったがモロに電波だった。 
    しかしただのキチ○ガイでもなかった。 
    頭は半端じゃなく切れた。師匠がやり込められるのを度々見ることがあった。 

    歩くさんはカンも鋭くて、バスが遅れることを言い当てたり、「テレビのチャンネル 
    を変えろ」というので変えると巨人の松井がホームランを打つところだったりした 
    ことがしばしばだった。 
    ある時師匠になにげなく歩くさんってなんなんですかねーと言ってみると 
    「エドガーケイシーって知ってるか?」と言う。 
    「もちろん知ってますよ。予知夢だか催眠状態だかで色々言い当てる人でしょ」 
    「それ。たぶん、歩くも」 


    657 名前:歩くさん 3/4 投稿日:03/05/06 23:22

    「どういうことですか」 
    「あいつの寝てるところを見せてやりてえよ。怖いぞ」 
    どう怖いのか、よくわからなかったがはぐらかされた。 
    「エドガーケイシーはちょっと専門外だが、やつみたいな後天的ショック 
     じゃなく、歩くはおそらく先天的な体質だ」 
    「予知夢見るわけですか?」 
    「よく分らん。起きてるのかどうかも分らん。ただあたりもするし、外れもする。 
     お前が金縛り中にみるっていう擬似体験に近いのかもしれん」 
    僕は金縛り中に「起きたつもりがまたベットの中」という、わりによく聞く現象に 
    しばしばあっていたのだが、それが時に長時間、ひどい時は丸1日生活したあげく 
    巻き戻るということがあり、自分でも高校時代に金縛りノートを作って研究していた。 
    師匠がそのノートをやたら気に入り、くれくれうるさいのであげてしまっていた。 
    今思うと、歩くさんの体質を調べる資料として欲しがったのではないだろうか。 

    658 名前:歩くさん 4/4 投稿日:03/05/06 23:22

    「先輩は歩くさんを一人じめしてるわけですか」 
    師匠はニヤっと笑って懐からフロッピーを出して振ってみせた。 
    それはタイミングが良すぎたのでたぶんハッタリだが、師匠がなんらかの 
    形で歩くさんファイルみたいなものを作っていたのは間違いない。 

    そんなことよりも僕がぞっとしたのは、歩くさんが卒業する時 
    「洪水に気をつけろ」みたいなことを僕に言ったことだ。 
    そのことをすっかり忘れていたが、僕は就職に失敗して今田舎に帰って 
    いるのだが、実家はモロに南海大地震が来たら水没しかねない立地条件にあるのだ。 
    次の南海地震の死者は県内で最大3万人と最近の推計が出ている。 
    勘弁してくれ。マジで怖い。 
    あと何年で来るんだよー。メソメソ

     


    585 名前:ウニ 投稿日:03/05/06 15:50

    一度消えた身でありながら、不本意な断筆であったために悶々としておりました。 
    一夜限りの復活お許し願います。 

    ローカルネタは、詳しい人がいるようなので避けます。 
    3話ありますが、最後の話をどうしても書きたかったのです。 

    586 名前:奇形 1/6 投稿日:03/05/06 15:52

    俺にはオカルト道の師匠がいるのだが、やはり彼なりの霊の捉え方が 
    あってしばしば「霊とはこういうもの」と講釈をしてくれた。 
    師匠曰く、 
    ほとんどの霊体は自分が死んでいることをよくわかっていない。 
    事故現場などにとどまって未だに助けを求めているやつもいれば、 
    生前の生活行動を愚直に繰り返そうとするやつもいる。 
    そういうやつは普通の人間が怖がるものはやっぱり怖いのさ。 
    ヤクザも怖ければ獰猛な犬も怖い。キチガイも。 
    怒鳴ってやるだけで、可哀相なくらいびびるやつもいる。 
    問題は恫喝にもびびらないやつ。 
    自分が死んでいることを理解しているやつには関わらない方がいい。 

    といったことなどをよく言っていたが、これは納得できる話だしよく 
    聞く話だ。 
    しかし、ある時教えてくれたことは師匠以外の人から聞いたことがなく、 
    未だにそれに類する話も聞いたことがない。 
    俺の無知のせいかもしれないが、このスレの人たちはどう思うだろうか。 

    587 名前:奇形 2/6 投稿日:03/05/06 15:53

    大学二年の夏ごろ、俺は変わったものを立て続けに見た。 
    最初ははじめて行ったパチンコ屋で、パチンココーナーをウロウロしていると 
    ある台に座るオッサンの異様に思わず立ち止まった。 
    下唇が異常なほど腫れあがって垂れ下がっている。 
    ほとんど胸に付くくらい、ボテっと。 
    そういう病気の人もいるんだなあと思い、立ち去ったがその次の日のこと。 
    街に出るのにバスに乗り、乗車口正面の席に座ってぼうっとしていると 
    前の席に座る人の手の指が多いことに気付いた。 
    肘掛に乗せている手の指がどう数えても6本あるのだ。 
    左端に親指があるのはいいのだが反対の端っこに大きな指がもう一本生えている。 
    多指症というやつだろうか。 
    その人は俺よりさきに降りていったが、他の誰もジロジロみている気配はなかった。 
    気付かないのか、と思ったがあとで自分の思慮のなさに思い至った。 

    588 名前:奇形 3/6 投稿日:03/05/06 15:53

    そしてまた次の日、今度は小人を見た。 
    これもパチンコ屋だが、子供がチョロチョロしてるなあと思ったら顔を見ると中年だった。 
    男か女かよくわからない独特の顔立ちで、甲高い声で「出ないぞ」みたいな 
    ことを言っていた。 
    足もまがってるせいか、かなり小さい。背の低い俺の胸までもないくらい。 
    こんどはあまりジロジロ見なかったが、奇形を見るのが立て続いたので 
    そういうこともあるんだなあと不思議な気持ちになった。 

    このことを師匠に話すと、喜ぶと思いきや難しい顔をした。 
    師匠は俺を怖がらせるのが好きなので「祟られてるぞ」とか 
    無責任なことを言いそうなものだったが。 
    暫く考えて師匠は両手を変な形に合わせてから口を開いた。 
    「一度見ると、しばらくはまた他人を注意して見るようになる。 
     そういうこともあるさ。蓋然性の問題だね。 
     ただ、さっきの話でひとつおかしいところがある。 」 


    590 名前:奇形 4/6 投稿日:03/05/06 15:55

    「乗車口正面の席は右手側に窓があるね」 
    何を言い出すのかと思ったが頷いた。 
    「当然その前の席も同じだ。さて、君が見た肘掛に乗せた手は右手でしょうか、左手でしょうか」 
    意味がわからなかったので、首を振った。 
    「窓際に肘掛があるバスもあるけど、君によく見え、また他の人が気づかないのを不思議に思うという状況からしてその肘掛は通路側だ。 
    ということは親指が左側にあってはよくないね」 
    あっ、と思った。 
    「左手が乗ってなきゃいけないのに、乗っていたのはまるで右手だね。 
     6本あったことだけじゃなく、そこにも気付くはずだ。聞いただけの 
     僕にもあった違和感が、ジロジロ見ていた君にないのはおかしい」 

    これから恐ろしいことを聞くような気がして、冷や汗が流れた。 

    「他の2つの話では、女なのか男なのか容姿に触れた部分があったけど 
     バスの話では無い。席を立ったのだから、見ているはずなのに。 
     見えているものの記憶がはっきりしない。君はあやふやな部分を無意識 
     に隠し、それをただの奇形だと思おうとしている。 
     もう一度聞くがそれをジロジロ見ていたのは君だけなんだね?」 

    591 名前:奇形 5/6 投稿日:03/05/06 15:55

    師匠は組んだ手を掲げた。 
    「いいかい。利き腕を出して。君は右だね。掌を下にして。その手の上に 
     左の掌を下にしてかぶせて。 親指以外が重なるように。そうそう。 
     左の中指が右の薬指に重なるくらいの感じ。左が気持ち下目かな。 
     残りの指も長さが合わなくても重なるように。すると指は6本になるね」 

    これはやってみてほしい。 

    「親指が2本になり、左右対象になったわけだ。どんな感じ?」 
    不思議な感覚だ。落ち着くというか。安心するというか。 
    普通に両手を合わせるよりも一体感がある。 
    そのまま上下左右に動かすと特に感じる。 
    「これは人間が潜在意識のなかで望んでいる掌の形だよ。 
     左右対象で、両脇の親指が均等な力で物を掴む。 
     僕はこんな『親指が二本ある幽霊』を何度か見たことがある」 

    592 名前:奇形 6/6 投稿日:03/05/06 15:55

    「あれは俺だけに見えていた霊だったと?」 
    「多分ね。 たまにいるんだよ。生前のそのままの姿でウロつく霊も 
     いれば、より落ちつくように、不安定な自分を保とうとするように、 
     両手とも利き腕になっていたり、左右対象の6本指になっていたり・・・ 
     本人も無意識の内に変形しているヤツが。」 
    師匠はそう言って擬似6本指で俺にアイアンクローを掛けてきた。 

    不思議な話だった。 
    そんな話は寡聞にして聞いたことがない。 
    両手とも利き腕だとか・・・・ 
    怪談本の類はかなり読んだけどそういうことに触れている本にはお目にかかったことが無い。 
    師匠のはったりなのか、それとも俺の知らない世界の道理なのか。 
    いまは知りようもない。


    631 名前:コジョウイケトンネル 投稿日:03/04/30 20:52

    師匠には見えて、僕には見えないことがしばしばあった。 

    夏前ごろ、オカルト道の師匠に連れられてコジョウイケトンネルに深夜ドライブを敢行した。 
    コジョウイケトンネルは隣のK市にある有名スポットで、近辺で5指に入る名所だ。 
    K市にはなぜか異様に心霊スポットが多い。 
    道々師匠が見所を説明してくれた。 
    「コジョウイケトンネルはマジで出るぞ。手前の電話ボックスもヤバイが 
     トンネル内では入りこんでくるからな」 
    入りこんでくるという噂は聞いたことがあった。 
    「特に3人乗りが危ない。一つだけ座席をあけていると、そこに乗ってくる」 
    僕は猛烈に嫌な予感がした。 
    師匠の運転席の隣にはぬいぐるみが座っていた。 
    僕は後部座席で一人観念した。 
    「乗せる気ですね」 
    トンネルが見えてきた。 

    632 名前:コジョウイケトンネル 続き 投稿日:03/04/30 20:52

    手前の電話ボックスとやらにはなにも見えなかったが、トンネル内に入るとさすがに空気が違う。 
    思ったより暗くて僕はキョロキョロ周囲を見まわした。 
    少し進んだだけで、これは出る、と確信する。 
    耳鳴りがするのだ。 
    僕は右側に座ろうか左側に座ろうか迷って、真ん中あたりでもぞもぞしていた。 
    右側の対抗車線からくるか、左の壁側からくるのか。 
    ドキドキしていると、いきなり師匠が叫んだ。 
    「ぶっ殺すぞコラァッァ!!!」 
    僕が言われたのかと縮みあがった。 
    「頭下げろ、触られるな」 
    耳鳴りがすごい。しかし何も見えない。 
    慌てて頭を下げるが、見えない手がすり抜けたかと思うと心臓に悪い。 
    「逃げるなァ!! 逃げたらもう一回殺す!」 


    633 名前:コジョウイケトンネル ラスト 投稿日:03/04/30 20:53

    師匠が啖呵を切るのはなんどか見たが、これほど壮絶なのは初めてだった。 
    「おい、逃がすな、はやく写真とれ」 
    心霊写真用に僕がカメラを預かっていたのだ。 
    しかし・・・ 
    「どっちっスか」 
    「はやく、右の窓際」 
    「見えませんッ」 
    「タクシーの帽子! 見えるだろ。 逃げるなコラァ! 殺すぞ」 
    「見えません!」 
    ちっ、と師匠は舌打ちして前を向き直った。 
    ブレーキ掛ける気だ・・・ 
    俺は真っ青になって、めったやたらにシャッターを切った。 

    トンネルを出た時には生きた心地がしなかった。 
    後日現像された写真を見せてもらうとそこには窓と、そのむこうのトンネル内壁のランプが写っていた。 
    師匠は不機嫌そうに言った。 
    「俺から見て右の窓だった」 
    よく見ると窓にうつるカメラを構えた僕の肩の後ろに、うっすらとタクシー帽を被った初老の男の怯えた顔が写っていた。


    598 名前:東山ホテル 1/6投稿日:03/04/30 12:21

    強烈な体験がある。 
    夏だからーという安直な理由でサークル仲間とオカルトスポットに 行くことになった。 
    東山峠にある東山ホテルという廃屋だ。 
    俺はネットで情報を集めたが、とにかく出るということなのでここにきめた。 
    とにかく不特定多数の証言から 
    「ボイラー室に焼け跡があり、そこがヤバイ」 
    などの情報を得たが特に 
    「3階で人の声を聞いた」 
    「何も見つからないので帰ろうとすると3階の窓に人影が見えた」 
    と、3階に不気味な話が集中しているのが気に入った。 

    雰囲気を出すために俺の家でこっくりさんをやって楽しんだあと12時くらいに現地へ向った。 
    男4女4の大所帯だったので、結構みんな余裕だったが東山ホテル 
    の不気味な大きい影が見えてくると空気が変わった。 


    599 名前:東山ホテル 2/6投稿日:03/04/30 12:22

    隣接する墓場から裏口に侵入できると聞いていたので、動きやすい服を来てこいとみんなに言っておいたが、肝心の墓場がない。 
    右側にそれらしいスペースがあるが広大な空き地になっている。 
    「墓なんてないぞ」 
    と言われたが、懐中電灯をかざして空き地の中に入ってみると 
    雛壇のようなものがあり、変な形の塔が立っていた。 
    「おい、こっち何か書いてある」 
    言われて記念碑のみたいなものを照らして見ると 
    「殉職者慰霊塔」 
    ヒィィー 

    昭和3×年 誰某 警部補 
    みたいなことが何十と列挙されていた。 
    もうその佇まいといい、横の廃屋といい、女の子の半分に泣きが入った。 
    男まで「やばいっすよここ」と真剣な顔してい出だす始末。 

    600 名前:東山ホテル 3/6投稿日:03/04/30 12:22

    俺もびびっていたが帰ってはサブすぎるので、なんとかなだめすかして奥にある沢を越えホテルの裏口に侵入した。 

    敷地から、1ヵ所開いていた窓を乗り越えて中に入ると部屋は電話機やら空き缶やら様々なゴミが散乱していた。 
    風呂場やトイレなど、汚れてはいたが使っていたそのままの感じだ。 
    部屋から廊下にでると剥がれた壁や捲くれあがった絨毯でいかにもな廃屋に仕上がっている。 
    懐中電灯が2個しかないのでなるべく離れない様にしながら各個室やトイレなどの写真をとりまくった。 
    特に台所は用具がまるまる残っていて、帳簿とかもあった。 
    噂だがここはオーナーが気が狂って潰れたという。 

    1階を探索して少し気が大きくなったので2階へ続く階段を見つけて、のぼった。 
    2階のフロアについて、噂の3階へそのまま行こうかと話していた 
    時だ。 

    601 名前:東山ホテル 4/6投稿日:03/04/30 12:23

    急に静寂のなかに電話のベルが鳴り響いた。 
    3階の方からだ。 
    女の子が悲鳴をあげてしまった。 
    連鎖するように動揺が広がって何人か下へ駆け降りた。 
    「落ちつけ。落ちつけって」 
    最悪だ。パニックはよけいな事故を起こす。 
    俺は上がろうか降りようか逡巡したが、ジリリリリリという 
    気味の悪い音は心臓に悪い。 
    「走るな。ゆっくり降りろよ」 
    と保護者の気分で言ったが、懐中電灯を持っている二人は 
    すでに駆け降りてしまっている。 
    暗闇がすうっと下りてきて、ぞっとしたので俺も慌てて走った。 

    広くなっている1階のロビーあたりで皆は固まっていた。 
    俺が着いたときに、ふっ、と電話は止った。 

    603 名前:東山ホテル 5/6投稿日:03/04/30 12:25

    「もう帰る」 
    と泣いてる子がいて、気まずかった。 
    男たちも青い顔をしている。 
    その時一番年長の先輩が口を開いた。 
    俺のオカルト道の師匠だ。 
    「ゴメンゴメン。ほんとにゴメン」 
    そういいながらポケットから携帯電話を取り出した。 
    「こんなに驚くとは思わなかったから、ゴメンね」 
    曰く、驚かそうとして昼間に携帯を一台3階に仕込んでおいたらしい。 
    それで頃合をみはからってこっそりそっちの携帯に電話したと。 
    アフォか! やりすぎだっつーの。 
    もうしらけてしまったので、そこで撤退になった。 

    帰りしな師匠が言う。 
    「あそこ洒落にならないね」 
    洒落にならんのはアンタだと言いそうになったが師匠は続けた。 


    604 名前:東山ホテル 6/6投稿日:03/04/30 12:26

    「僕たちが慰霊塔見てる時、ホテルの窓に人がいたでしょ」 
    見てない。あの時ホテルのほうを見るなんて考えもしない。 
    「夏だからDQNかと思ったけど、中に入ったら明らかに違った。 
     10人じゃきかないくらい居た。上の方の階」 
    「居たって・・・」 
    「ネタのためにケータイもう一個買うほどの金あると思う?」 
    そこで俺アワアワ状態。 

    「あれはホテルの電話。音聞いたでしょ。じりりりりり」 
    たしかに。 
    みんなを送って行ったあと、師匠がとんでもないことを言う。 
    「じゃ、戻ろうかホテル」 
    俺は勘弁してくれと泣きつき、解放された。 
    しかし師匠は結局一人でいったみたいだった。 

    後日どうなったか聞いてみると、ウソか本当かわからない表情で 
    「また電話が掛かってきてね。出ても受話器からジリリリリリリ。 
     根性なしが!! って一喝したらホテル中のが鳴り出した。 
     ヤバイと思って逃げた」


    504 名前:失踪 1/5 投稿日:03/04/30 01:35

    寝れないので、再度登場。 

    師匠との話をまだいくつか書くつもりだが、俺が途中で飽きるかも 
    しれんし、叩かれてへこんで止めるかもしれないので先に一連の 
    出来事の落ちである、師匠の失踪について書いておく。 

    俺が3回生(単位27。プw)の時、師匠はその大学の図書館司書の職についていた。 
    そのころ師匠はかなり精神的に参ってて、よく 
    「そこに女がいる!」とか言っては何も無い空間にビクビクしていた。 
    俺は何も感じないが、俺は師匠より霊感がないので師匠には見えるんだと思って一緒にビビっていた。 

    変だと思いはじめたのは、3回生の秋頃。 
    師匠とはめったに会わなくなっていたが、あるとき学食で一緒になって同じテーブルについたとき 
    「後ろの席、何人見える?」と言いだした。 

    505 名前:失踪 2/5 投稿日:03/04/30 01:35

    夜九時前で学食はガラガラ。後ろのテーブルにも誰も座っていなかった。 
    「何かみえるんすか?」というと 
    「いるだろう? 何人いる?」とガタガタ震えだした。 
    耳鳴りもないし、出る時独特の悪寒もない。 
    俺はその時思った。 
    憑かれてると思いこんでるのでは・・・・・ 
    俺は思いついて 
    「大丈夫ですよ。なにもいませんよ」 
    というと 
    「そうか。そうだよね」 
    と安心したような顔をしたのだ。 
    確信した。 
    霊はここにいない。 
    師匠の頭に住みついてるのだ。 
    『発狂』という言葉が浮んで俺は悲しくなり、無性に泣きたかった。 


    506 名前:失踪 3/5 投稿日:03/04/30 01:36

    百話物語りもしたし、肝試しもしまくった。 
    バチ当たりなこともいっぱいしたし、降霊実験までした。 
    いいかげん取り憑かれてもおかしくない。 
    でも多分師匠の発狂の理由は違う。 

    食事をした3日後に師匠は失踪した。 
    探すなという置手紙があったので、動けなかった。 
    師匠の家庭は複雑だったらしく、大学から連絡がいって叔母とかいう人がアパートを整理しに来た。 
    すごい感じ悪いババアで、親友だったと言ってもすぐ追い出された。 
    師匠の失踪前の様子くらい聞くだろうに。 
    結局それっきり。 
    しかし俺なりに思うところがある。 

    507 名前:失踪 4/5 投稿日:03/04/30 01:37

    俺が大学に入った頃、まことしやかに流れていた噂。 
    「あいつは人殺してる」 
    冗談めかして先輩たちが言っていたが、あれは多分真実だ。 

    師匠はよく酔うと言っていたことがある。 
    「死体をどこに埋めるか。それがすべてだ」 
    この手のジョークは突っ込まないという暗黙のルールがあったがそんな話をするときの目がやたら怖かった。 
    そして今にして思い、ぞっとするのだが師匠の車でめぐった数々の心霊スポット。 
    中でもある山(皆殺しの家という名所)に行ったときこんなことを言っていた。 
    「不特定多数の人間が深夜、人を忍んで行動する。 
     そして怪奇な噂。 
     怨恨でなければ、個人は特定できない」 


    508 名前:失踪 5/5 投稿日:03/04/30 01:39

    聞いた時はなにをいっているのか分らなかったが、多分師匠は心霊スポットを巡りながら埋める場所を探していたのではないだろうか。 
    俺がなによりぞっとするのは、俺が助手席に乗っているとき 
    あの車のトランクのなかにそれがあったなら・・・・・・ 


    今思うとあの人についてはわからないことだらけだ。 
    ただ「見える」人間でも心の中に巣食う闇には勝てなかった。 
    性格が変わった、あのそうめん事件のころから師匠は徐々に狂いはじめていたのではないだろうか。 

    師匠の忘れられない言葉がある。 
    俺がはじめて本格的な心霊スポットに連れて行かれ、ビビリきっているとき師匠がこういった。 
    「こんな暗闇のどこが怖いんだ。目をつぶってみろ。 
     それがこの世で最も深い闇だ」


    481 名前:そうめんの話 投稿日:03/04/29 23:31

    これは怪談じゃないが話しておかなくてならない。 

    僕のオカルト道の師匠が、急にサークルに顔を出さなくなった。 
    師匠の同期の先輩がいうには大学にも来てないとのこと。 

    心配になって僕は師匠の家に直接いってみた。 
    すると案の定鍵が開いていたのでノックして乗り込むとゲッソリした師匠が布団に寝ている。 
    話を聞いてみると 
    「食欲が無くてもう1週間そうめんしか食べてない」 
    そりゃやつれるわ。と思い 
    僕が「何か食うもんないんですか? 死にますよ」 
    といって部屋をあさったが何も出てこない。 

    482 名前:そうめんの話 投稿日:03/04/29 23:32

    「夏バテですか?」 
    と聞いたが答えない。何も答えてくれないので 
    もう知らんわい、と僕は薄情にも家を出た。 
    僕は師匠を恐れてはいたが、妙に彼は子供っぽいところが 
    あり、ある面僕はナメていた。その頃にはため口もきいたし。 

    二日後にまた行くと、同じ格好で寝ている。 
    部屋から一歩も出ずに1日中ゴロゴロしているそうだ。
    「そうめんばっかりじゃもちませんよ」 
    と僕がいうと師匠は急に うっぷ と胸を押えてトイレにかけこんだ。 
    背中をさすると、ゲロゲロと吐き始めた。 
    それを見ながら僕は 
    「白いそうめんしか食ってなくても、ゲロはしっかり茶色いんだなぁ」と変なことを考えていたがふと気付いた。そういえば・・・ 


    483 名前:そうめんの話 ラスト 投稿日:03/04/29 23:32

    もう一度あさったがやはり何もない。 
    そうめんさえこの部屋にはないのだ。 
    「なに食ってるんスか先輩」 
    と詰め寄ったが答えてくれない。 
    なにかに憑かれてんじゃねーのかこの人? 
    と思ったが、僕にはどうしようもない。 

    取りあえずむりやり病院に連れて行くと、栄養失調で即入院になった。 
    点滴打ってると治ったらしく4日後には退院してきたが
    あの引きこもり中に何を食べていたのか、結局教えてくれなかった。 

    ただなぜかそれから口調が急に変わった。 
    「俺。オイコラ」から、大人しい「僕。~だね。~だよ」 
    になり、子供っぽさが加速した。 
    その一回生の夏、僕は師匠とオカルトスポットに行きまくったのだが、おかげで頼りがいがなく色々ヤバイ目にあう。

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